iroiro

音楽とかいろいろ

或る感覚2016.12.18

f:id:xxxkikimusicxxx:20161218202120j:imagef:id:xxxkikimusicxxx:20161218202122j:image

  • 或る感覚との出会い

 或る感覚との出会いはYouTubeで見た『ナチュラル』のPVだった。

 或る感覚 - ナチュラル - YouTube

 衝撃が強かった。いやこういうバンドは昔から好んで聞いたいたんだけれども、それはNUNBER GIRLや初期Base Ball Bear、キドリキドリ、ハヌマーンのようなジャッキジャキで歪みまくりのギターで掻き鳴らすような音がずっと好きだったんだけど、何というか「2010年代にもまだこういうバンドって存在したんだ!」っていう衝撃があった。もうなんかめっちゃナヨナヨした「サブカル女子受け最高!」みたいな、金髪マッシュ、もしくはクソみたいなパーマ、もしくは黒髪ボブ黒縁メガネみたいな出で立ちでとにかくガリガリでめっちゃチャラくてTwitterでクソリプ爆撃を受けたり、画像にキラキラ加工を施されたり、「●●君かわいい~」みたいなクソツイされたり、#邦楽好きのフォロワーさんと繋がりたいみたいなクソハッシュタグ付けられたり、Twitterのbioがスラッシュまみれだったり、謎のポエムだったり、好きな歌詞だったり、サブカル女子におもちゃにされているような本当に可哀想なバンドみたいなのばっかりだと思っていたから、こういう良い意味で青臭いバンドがとても新鮮だった。
 それから少し時間が経った頃、正確には覚えてないけど恐らくiTunesでSG『ナチュラル/初夏のピラニア/ロマンチック・アルカイダ』を購入。とは言えそこまで聞いてない気がする。ただそのあと彼らがアルバムをリリースしたことを知って、シングルも良かったしアルバムも聞いてみるかみたいなノリでAmazonで2ndAL『バイタルリスペクト』を購入。特に何も考えてなかったし、まあアルバム全体を聞いて評価するのが正しいし、それはごく自然な流れだった。でも結果的にこれが大当たりだった。最高だった。すごかった。一つだけ文句を言うなら「歌詞カードがめっちゃ読みづらい。オレンジの紙に白の文字は目がチカチカするし目がおかしくなる」だ。ただ、収録曲はどれをとっても素晴らしくて、特にM-4『スローウェイヴ』の浮遊力も新しい自分へ進化していく雰囲気も何もかもが最高、M-7『キリコ・シンコペーション』の突き抜け方は或る感覚!って感じだし、M-10『対話』の優しさはこれまでの攻撃性を溶かすような感じで素晴らしい。過去も現在も未来も全てが等しく大切で、あなたとの時間も話も生活も何もかもを「よくある話」なんかで終わらせたくないよね。そして最後M-12『エンドビールで乾杯』はビール瓶でぶん殴るような荒々しい雰囲気でこれもまた最高。絶対に殺してやるからなっていう殺気立っている感じが本当に愛せる。優しさなんて見せずに一思いに殺してしまおうね。ずっとずっとそうやって仮想敵と戦っていてほしい。自分以外は全員敵だと思っていてほしい。
 既存曲もシングルとは違った面を見せていて、少しだけ大人になって彼らの成長を見ているような感覚に襲われた。何もかもが本当に良かった。どの曲を聞いても最高にかっこよくて手放しで愛せるような作品だ。この年いちばん聞いたアルバムだったと記憶している。
 それから確か2月のライブに行ったんだけど、お客さんは少なかったしわたしはド真ん中にいて、その上バレンタイン時期だったからチロルチョコをめっちゃ投げられてビシビシ当たった気がする。ひとつも持って帰らなかったけど。当時のわたしは『スローウェイヴ』さえ聞ければあとは何でもいいやって思っていたんだけれども、ライブ終わりに「もっと聞きたい!もっと知りたい!もっと或る感覚のことを好きになりたい!」と思って物販で1stAL『カウンター』を買って帰った。帰りの天神地下街GODIVAの前を通って「どうせ投げるならGODIVAにしろよ貧乏バンドマンが…」って思ったけどGODIVAを投げつけられるのもなんか嫌だな。成金感がすごい。「GODIVAなんていくらでも買えるんですけど~?」みたいな。ウワッめっちゃ腹立つ或る感覚が貧乏バンドでよかった!
 帰宅して『カウンター』を聞いた。M-1『鬼』からキレッキレで「さすが20代前半!初期衝動ってやつだ!」って思ったし、この頃から語感だけで歌詞を書いてるなあと思った。前編通してほぼほぼ同じテンションだけどたまにトリッキーな曲(M-6『HAPPY ROBOT』)が混ざっていて、1stALとは思えないほどの完成度だった。アルバムと同タイトルのM-12『カウンター』なんて、わたしの好きな要素である「雪崩れ込むような音」、「畳みかける言葉」、全てが詰まっていてこのアルバムの中でいちばん聞いた曲だと思う。アルバム全体としては一曲一曲は勢いが強いけど全て聞き終わるとその勢いだけで作ってるとも思えなかったし、各々の作用が良い方向に向いていた。きっと1stから聞いても2ndが楽しみに思えたし、逆に2ndから聞いたわたしはこれからの彼らのポテンシャルに本当に期待していた。全てが良いと思えるバンドなんてそうそういなくて、リリースの度に愛が減ったりすることが多々あるんだけど、或る感覚に関してはそんなことがなかった。
 ライブにはまた行きたかったし、いま聞いてる音たちはどんな風になるんだろうと思っていた。
 でも2月のライブ以来行く機会がなかった。いま思うと本当にもったいないことをしてしまったと思う。

 

 f:id:xxxkikimusicxxx:20161218202137j:image

  •  或る感覚の進化/変化/次の宇宙へ向かうために

 2ndAL『バイタルリスペクト』のM-4『スローウェイヴ』で歌っていたように或る感覚は「次の宇宙」へ向かっていた。それが2ヶ月ごと連続でリリースした『HEADPHONE PUNK1』、『HEADPHONE PUNK2』、『HEADPHONE PUNK3』だった。Twitterでロンがよく新曲をUPしていたのでそれを聞きながらわたしはリリースを待ち望んでいたし、特に『HEADPHONE PUNK1』はタワレコオンラインでしか手に入らなかったから(のちにメルカリでバカみたいに高い値段で売られていてロンがブチ切れていたけど)(ほんとあなたそういうとこあるよね。Twitterでブチ切れるのいい加減やめて。インターネットで本気にならないで)、送料にキレながらキドリキドリと一緒に買ったし(キドリキドリのアルバムはめっっっっちゃよかった。『テキーラと熱帯夜』ほんとに好き)、そうじゃなくてもそのあとのリリースも、(ロンがキレてタワレコで買える店舗を増やしたので)タワレコで予約して買った。
 で、この音。何これ。どうしたの。風呂場は録音環境ではありません!!!!!って思わず言っちゃうような音だよこれ。何が良いのかさっぱりわからない。わたしが知っている、わたしが待っていた或る感覚ってこんなのだっけ?それとも若気の至りでこんなことをしているの?これっていったいどういうことなの?若いってそういうことなの?『HEADPHONE PUNK2』収録の『ステレオブルー』だってそうだよ。新曲としてUPしたときはもっと攻撃性が高くて、「或る感覚だーー!」ってなったのに。本当に好きだったのに。『HEADPHONE PUNK3』には『ロマンチック・アルカイダ』の再録が入ってるからすごく楽しみにしていたのに、この、ところてん感。暖簾に腕押し。糠に釘。あのときの「ヒーローもろとも絶対殺す!」っていう気概はどこに行ってしまったの。何て言うか当時好きだった子と10年ぶりの同窓会で再会したらめっちゃブスになっててすごくショックを受けたみたいな感じ。あの頃はすごく可愛かったけどあれも思い出補正だったのかなあって自分の記憶を疑ってしまう。もうほんとうにそんな感じ。
 それだけ期待をかけていたバンドだったけれども、彼らの目指す「次の宇宙」がここならばそれはそれで受け入れるしかなかったし、正直アルバムでどう変化するのかも気になっていたから何だかんだ言っても次のリリースも買うんだろうと思っていた。当時はそう思っていた。ライブだってアルバムをリリースすれば行うはず。ライブだったらきっとこの音たちは変わるはず。こんなのは音源だけだよ。大丈夫。絶対にここで終わらない。アルバムは年内もしくは年明け早々にでも出ると勝手に思っていたし、そうなれば必然的にライブには行けるとわたしは思っていた。ライブで聞けるかもしれない『ステレオブルー』はすごく楽しみだった。こうやってわたしは勝手に期待をする。そして散る。

 

  • 或る感覚解散に寄せて

 11月の半ばごろに或る感覚の解散が耳に入ってきた。LINEで。持つべきものは耳の感覚が鋭くて、音楽に対して真摯に向き合おうとする彼氏だなと思った。ただこの話を聞いたときは本当に最悪だった。最初何の話をしているのか全然わからなかったし、現実だとも思わなかった。けれどもここ最近でいちばん最悪な出来事には変わりがなかった。起きてしまったことには変わりがなかった。バンドはいつか死ぬなんてことはわかっているけど、こんな速く寿命が来るなんて思ってもなかった。寝耳に水、青天の霹靂、なんかそういう「すごく衝撃的なこと」みたいな感じだった。それからいちばん最初に考えたのは「ロンはソロでいま弾き語りをしているからまあまだ音楽で食っていく気持ちはあるとしても、他のメンバーはどうなる?」だった。わたしが彼らの曲の中でいちばんすきな『スローウェイヴ』(2ndAL『バイタルリスペクト』収録)はどうなる?もう聞けない?あの2月に初めて行ったライブで聞いたっきり、もうこれっきりなの?…そんなの絶対に嫌だ。お願い見捨てないで、行かないで、わたしまだあなたのこと好きなの…!それでも別れるって言うならそのままお前のことを殺してわたしも死ぬ!っていう別れ際のメンヘラみたいなことを考えていた。それでも彼らはどこかへ行ってしまうし、消えてしまう。どれだけわたしが嘆いても彼らが戻ってくることはない。わたしにそこまでの力はない。特に今回はよくある「バンド資金問題」だけではなさそうだったし、バンドの核でもあるはずのGt.大野から脱退を申し出たという公式発表を見て「本当にどうすることもできなかったんだろうな」と思った。わたしは彼の作る曲がすごく好きだったけど、彼が作る曲が聞けないのであれば、悲しいけれども解散は正しい選択なのかなと。正しいことなんてわたしが決められるものではないんだけど、何かしらの「正しさ」を見出さないとどうすることもできない。これを書いている今ですら『スローウェイヴ』を繰り返し聞いている。人生の中で大切にしたい曲ランキングがあるならば上位に入る。そんなレベルで好き。
 フルアルバム2枚、シングル1枚、連続シングルリリース3枚。たった6枚で或る感覚は終わってしまった。次のアルバムをリリースする予定もあったみたいだけど、結局それは一生聞けないのだろう。すごく悲しいし悔しい。これはバンドに限らずだけれども、何もかもが未来永劫いるなんて思ってはいけない。生きてるものはいつかいなくなる。形を失う。いなくなってしまったら新しいものなんて生まれない。わたしはこれから先、彼らが遺した音だけを聞いて過ごすしかない。「いつかフラっと再結成するのも良いかもしれない」みたいなことをロンがツイートしていたけど、そんなことをするくらいならば何もしないでほしい。そのままわたしの中の思い出として生き続けてほしい。とか言ってるけどきっと再結成したらそれはそれで喜ぶんだろうな。ほんとうに好きなんだよなあ。っていうか20年とか続いてるバンドとか奇跡じゃん。いっそ怖い。
 ところで閃光ライオット出場バンド死にすぎ説とかも考えたけど(THE SALOVERSとかGalileo Galileiとかまさにそうだし)、でも若いってそういうことなのかもしれない。10代の頃の不安定な時期に作られたものは脆弱性があるのかもしれない。やりたいことも、好きな音も考え方も少しずつ変わっていって、まだまだ落ち着きがないのだろう。その落ち着きのなさが6枚のCDに詰まっているとしたら、良い瞬間に立ち会えたと思える。
 或る感覚は10年代で最強にかっこいいバンドだったし、最強にボーカルの精神が不安定だった。もうほんとにめちゃくちゃだった。精神不安定な人間はSNSをやってはいけない。Twitterやめるやめる詐欺の葉加瀬太郎だし。あとわたしのツイートをふぁぼるのやめて。通知欄見たときにタチバナロンがいたら心臓が止まる。それでも音はとてもかっこよくて、語感だけで選んだ歌詞も、何もかもがすごく良かった。何もかもがわたしの耳に刺さった。これからもずっと大切にするから、ずっとわたしの中で生き長らえてね。